![](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/dimension=416x1024:format=jpg/path/s49b7105b3388bb8f/image/ie59ba42fec25c600/version/1549529938/image.jpg)
その日は朝から気が張っていた。
映画の上映なんて初めてだったし、夜は総勢28名の宴会、
翌日は餅つき。
前年ブータンのお話会を開催した時も定員をはるかに超える
26名の方においでいただき、
立錐の余地なし!!
と申し訳なく思ったのだが、
さらにそれを超える人数。
しかも座卓があって鍋があって酒があって、、、28・・・人?
何度もシュミレーションを描いた。上映が終わったら機材をどけて座卓を出して・・・イヤイヤ上映会場は最初から2階にしようか。
そうしたら宴会の準備がスムーズだよ。それとも宴会が2階がいいかな。
座卓の配置はこうしたら みんな座れるよね・・・
ブツブツと何度も独り言を呟きながら、出現していない会場を目の前に思い描いた。私は気が張っていた。でも言い聞かせた。
始めた時は1人だった。
でも今は優しい旦那さんがいてくれて、手伝ってくれるから、大丈夫! 大丈夫。
そうしたらば、その当日いないのだ!
頼みにしていた夫が!
私は前日から前乗りしていた 日和スタイルの麻衣ちゃんたちとの会話を思い出した。
『 どこか群馬で面白いところありますか?』
そして面白いところスポットの一つに南牧村をあげたのだった。
まさか!?
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電話が鳴った。
忙しい最中。夫からであった。
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『・・・まさか、今、南牧村ですか』
『ハイ』
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『なぜ、猫の手も借りたい この日・この時に、南牧村にいるんですか!』
『・・・ゴメンなさい』
南牧村に麻衣ちゃんたちを案内しに行ってしまったのだった。
なぜ、この日・この時に?? why!??
夕方、日も暮れてから帰ってきたが、
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私は気が張ってはちきれそうだった上、とても疲労していた。
日中、私は走っていた。館の中を走り回り、さらに車と宿泊の手配で 学習の森まで5往復もした。
その間にモチ米研げたじゃんか!
オリャーー!
夕方手伝いに来てくれた和ノ屋の広恵ちゃんが
『えっ。。。何もできてないの!?』と仰天しながら台所にたった。
たす・・かっ・・・た、、、
鬼神の如き働き。包丁の音がマシンガンのようだ。
あ、阿修羅・・・? 腕が8本くらいあるように見えた。
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宴会が始まった。
うう、よかった。ちゃんと席にみんな座れてる。
みんな楽しそう。よかった。よかったよう。
あたしはもう、燃え尽きた あしたのジョーのようだ。
ヨレヨレになって台所のわきで鍋をつついていたら、呼ばれた。
フセちゃーん。
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なにごと。
土間になぜか、草木染めの杜人先生が立っていた。すごく寒そうだ。
具合を悪くして今日ここにいないはずだった。
???
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そしてケーキがでてきた。
ハッピーウエディングて、描いてある。
あっ。この和ろうそく、この前広恵ちゃんがウチで買っていったのだ!
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それから手作りブーケと蝋梅の花冠。
トンカラのロゴを染めた 草木染めの手ぬぐい。
拍手がわいた。
『結婚おめでとーーー!』
まさか私の人生でこんなことが起こるとは。
広恵ちゃんが呼びかけて、入籍したものの式を挙げていない私たちに、こんなサプライズを仕掛けてくれたんですって。
『このオヤジはー、俺とほぼ同い歳でありながら〜、 トモミちゃんが起業して心細いところをつけ込んでーーーー、 』
と酔っぱらった木暮さんが大きな声で説明してくれた。
ハイ、だいたい その通りです。
そして杜人先生はビックリさせるためにケーキを持って1時間半も外で待っていたという・・・しかも夫が不在で手が足りず 宴会の開始が遅れて待機時間が延長されたという。。。
ここを始める時、誰もが言った。
『それで回っていけるの?』
『失敗する可能性の方が高い』
『それは事業とは言えない、ただの冒険だ』
『うまくいかないと思うよ』
だけど、なぜか確信があった。
ここに、私のみたい風景を生み出したい。
その風景に 共感して、共鳴してくれる人が、きっと少なからずいるはずだ。
それでも、やっぱり迷うこと悩むことの方が多かった。
そんな頃から。
ここを始めた頃から、よく顔を出してくれたおじさんがいた。
手伝いを申し出てくれて、何かれとなく手伝ってくれたが、
『どうしよーー。。。このおじさん』と、困っていた。
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やがて おじさんは、私のいない時に勝手に花を活けるようになった。
野山に生えている花だった。
それが、鮮やかで美しかった。
『 買った花は難しいんだけど、野の花はね、ゴチャゴチャ適当に活けても なんか、美しいんだよね 』
野の花は、
風に揺られ、雨つぶや日差しを受けて、
ほかの草木と根を張りあい、
葉を広げあい、虫や鳥や獣と、ともに生きている。
それはきっと、普遍的な世界の在り方だ。
他者に対する厳しさと、同時に許しと共存とを、きっと内包しているものだ。
安定した境遇と引き換えに
単一のあり方しか許さない、ハウス栽培のような規格の中で生きることが、
つらいと感じる人たちがいる。
それはただ、自分の中の自然に、素直なだけだ。
自らに、素直な人は美しい。
鳥が渡りゆく先を知るように、ひとは誰もがきっと、
自分の方位磁針を持っている。
その指し示す方へ、真摯に赴くひとは、みな美しい。
その おじさんは、やがて私の夫になった。
・・・・・・・・
この宴は、まるで野の花の饗宴だった。
ここに集ってくれた人たちの祝福が、何よりもうれしかった。
きらめきあう光と光が、出会ってつながって、響きあい、
そこからまた、あらたな響きが生まれて
誰かの中に灯ればいいな、と思う。
トンカラは、そんな場所であってほしいな、と思っている。